究極の『カタツムリ食オサムシ採卵マット』ブーストマット完成!
- YY
- 1月1日
- 読了時間: 23分
◆はじめに◆
当店は独自の技術・知識を活かして生体相手の諸活動を行っております。いくつか新商品として用品を作成する候補があったのですが、2023年末~2024年末にかけては、この「カタツムリ食オサムシ(マイマイカブリ・カブリモドキ)の採卵専用マット」の開発に注力してきました。
2024年11月・・・・このマットの販売解禁は2025年に持ち越すか・・・・という状況でしたが、湖北省の青いイボカブリモドキが無事に産卵をし、かつ複数産んだため(偶然ではないと判断できたため)、また、その青いイボカブリモドキの産卵経緯が本商品の確信を強めるものであったため販売を解禁します。
こちらでは、商品の説明はもちろん致しますが、それ以上にどのようにしてこの最強マットが誕生したのかという背景をお客様にはご覧頂きたく存じます。

ブーストマットの見た目
柔らかく、カチッとしているマットである

野外でスイッチを入れてきていない個体を産ませるのが難しい!
2023年11月に入手の広東省の個体は上記1個体(羽化成功)のみに終わってしまった
その後、当店のお客様のご協力で新たなペアを入手


2023年11月から、半年にわたって繁殖が難航したオオコブカブリモドキであるが、上記ペアで試行錯誤を繰り返し採卵に成功。1回のセットで9つほどの卵を得ることができ、その後もコンスタントに毎回の割り出して3~4個の卵を確保できている。

ある程度飼育すると休眠してしまうことが多い湖北省の青いイボカブリモドキ(Coptolabrus pustulifer xianfengensis)。
産まない以前に活動が顕著に鈍化するためどうしようもない。

こちらも半年以上の試行錯誤の末、採卵に成功
その背景は・・・・
【当方の繁殖実績】
・ホンマイマイカブリ(滋賀・兵庫・広島・福岡北部・淡路島・五島→仲通、若松、福江)
・ヒメマイマイカブリ(様々な地域、山地性、河川敷、離島→伊豆大島)
・シナカブリモドキ(浙江省金華)
・テイオウカブリモドキ(桂林、児山)
・イボカブリモドキ(重慶、湖北)
・オオコブカブリモドキ(広東、広西)
・プリンキパリスカブリモドキ(湖北)
・キタカブリ(山地性、河川敷)
・種間交配CBホンマイマイカブリ(福岡×福江)
・ミヤママイマイカブリ
・エリスカブリモドキ
・サドマイマイカブリ
※コアオマイマイカブリは繁殖したことがありません
※湖北省のCoptolabrus pustulifer xianfengensisはまだ羽化までたどり着いてはおりません(採卵成功が2024年12月であるため)
◆ブーストマットの誕生◆
カタツムリ食オサムシの魅力に憑りつかれている私は、2014年頃から繁殖を試み、2019年頃から本格的に繁殖開拓に取り組むようになりました。採集に行くハードルが高い五島列島のマイマイカブリを飼育して、ただCB個体を繋いでいくだけではなく、ワイルド個体のマックスサイズに近しい個体群を得たかったというのが一つ。外国のカブリモドキのような美麗種を増やし、カラーバリエーションを楽しみたかったというのがもう一つの理由でした。
順調に繁殖が進む種も多い中、繁殖に難儀する種にも出会いました。そういった繁殖にクセがある種の飼育開拓を進めていくにおいて、カタツムリ食オサムシの飼育の要は採卵にありました。採卵さえクリアすれば、あとは何とかなる・・・。本格的に難関種の飼育開拓にかけた月日はおよそ13か月。いよいよ、オールマイティーにカタツムリ食オサムシの採卵をカバーできるマットができました。
◆砕かれた自信◆
色々な種類のマイマイカブリ・カブリモドキを飼育実績として紹介していますが、上記のような飼育開拓のスタートを切っておりますので、まずは大型ホンマイマイカブリの飼育から開拓を進めていきました。開拓がぐっとはかどったのはエリスカブリモドキの繁殖。エリスカブリモドキは繁殖が容易で、気難しくもないので簡単に増やせました。エリスカブリモドキの飼育をベースに、もう少し気難しい九州北部のマイマイカブリの飼育を研究。これが成功すると、福江島の五島マイマイオス×九州北部のホンマイマイカブリメスで更に大型のマイマイカブリの飼育研究を進めました。ここもスムーズにクリアでき、五島列島のマイマイカブリの繁殖に着手。最初に得たWildの親から、68㎜超級を複数誕生させることができました。
五島列島のマイマイカブリを飼育しながら、その他の地域のマイマイカブリの飼育も進めていきました。ヒメマイマイカブリや、キタカブリを飼育しましたが、どれも順調に飼育開拓が進みました。時期をほぼ同じくして、中国のテイオウカブリモドキを入手。小ぶりなマイマイカブリよりはクセがあったものの、五島列島のマイマイカブリの飼育法を若干応用することでテイオウカブリモドキ(Coptolabrus augusts adriaensseni)の繁殖も順調に進みました。
各種マイマイカブリ、カブリモドキの飼育開拓が順調に進んだため、カタツムリ食オサムシの土台は完成したものと考え、あとは微調整でどのような種でも繁殖が叶うだろうと思ったのが2020年の頃でした。ただし、1種苦労をした種がありました。伊豆大島のヒメマイマイカブリでした。これは、産卵行動こそ見られるものの、マット上に卵を転がしてしまう・・・中々産まないというように苦労が続きました。
マイマイカブリやカブリモドキといったカタツムリ食オサムシの飼育の最大の関門は採卵~孵化までです。そこから先は、カタツムリをきちんと与えて飼育を続ければ新成虫の羽化までたどり着けることがほとんどです。蛹化マットにうるさい種もいますが、潜れなければいずれマットの上で蛹化してしまいます。次世代を繋いでいくというCaptive Breedが成功するかどうかは、やはり採卵~孵化までにかかっており、採卵できればまずは勝ち・・・採卵できないと始まらない・・・ここにカタツムリ食オサムシの飼育の要があると言えそうです。
そこから先は、しばらく手持ちの種を大切に繋ぎながら、たまに少し違う種を飼育するという時期が少しの間続きました。開業等で、どうしても主商品のホペイの飼育を優先する必要があり、カタツムリ食オサムシの飼育にさほど注力できなかったというのが理由です。
2023年の晩夏まではカタツムリ食オサムシの飼育開拓には取り組めませんでしたが・・・2023年の秋頃から少し活動にゆとりも出てきたため、かねてから着手したかったカタツムリ食オサムシの飼育開拓を再開しました。手を付けたのは重慶市のイボカブリモドキ。オスもメスも50㎜を超える、超幅広極厚の巨大亜種です。四川省の基亜種と同じ色味をしておりますが、サイズ感が全く違う面白い種でした。

採卵は当方が2023年秋までに開拓してきた方法で全く問題なく進んだ

ド派手な造形の大陸のカブリモドキの羽化は非常に神秘的である

ロックパックスリムSの中で硬化する新成虫
50㎜を優に超える圧倒的巨体である
このように、野外個体のマックスサイズを得られるのが繁殖の醍醐味である

比較的地味な印象があるかもしれないが
多頭数飼育が叶うと極上極美発色個体にも出会える
重慶市産のイボカブリモドキも繁殖が順調であり、むしろ増えすぎたため、2023年の秋程、カブリモドキを初夏から入手しておかなかったことを後悔した年はありませんでした。この頃は、成虫を入手できれば繁殖も叶うものと慢心しておりました。
今年は越冬個体の採集ものが初めて出回っている年かもしれません。そのくらい、中国のカブリモドキはシーズンを外すと入手が絶望的です。なんとか入手したのが以下のオオコブカブリモドキ(中国 広東省 韶関市 乳源ヤオ族自治県)。これがこれまでのキャリアを全否定してくる存在となったのでした。
広東省のオオコブカブリモドキ(wild)


2023年10月に2メスを入手
これがこれまでの当方の飼育キャリアを打ち砕く存在となった
オオコブカブリモドキは、到着したときにはよく餌を食べていたものの、その後全く活動をしなくなってしまいました。これが当方が”難関種”と考えているカブリモドキの厄介さです。これまでは、なんとなく活動が鈍い・・・なんとなく産み渋る・・・不全率がやや気になる・・・・・といったように、若干の支障を難しさとして感じてきました。しかし、難関種になってくると、活性が高い・鈍い以前に、ほぼ活動をしないという状態になってしまうのです。こうなってしまうと、何がトリガーで動いているのか、餌を食べているのかが全く分からなくなります。もちろん、様々な温度での管理を試し、色々な刺激を与えてみるなどの工夫には手を尽くしましたが・・・手ごたえを全く得られず。いくらでも増やせたテイオウカブリモドキやイボカブリモドキ巨大亜種とは全く違った難しさに直面したのでした。
繁殖を一度は諦め、極寒のベランダに出してしまったオオコブカブリモドキ(越冬のため)。ところが、このオオコブカブリモドキは啓蟄の日が過ぎたばかりの寒い頃・・・なんと1つの次世代を残したのでした。

2024年4月、ひっくり返したマットから転がり出てきた幼虫

上の幼虫が成虫になった姿
凄まじく美しく、カッコいい
秋に入手し、加温しても活動しなくなってしまったオオコブカブリモドキは、極寒の春に卵を産んだのでした。「低温なのか」と思い、その後低温で管理するもやはりオオコブカブリモドキは産みません。入手から半年以上、様々な試行をしました。新成虫も得られているのですから、間違いなく交配はしているし、正常な卵も産めるのです。しかし、オオコブカブリモドキは活動をしません。産みません。そうこうして夏が来て、広東省のオオコブカブリモドキの繁殖は失敗(偶然の×1の次世代入手)に終わってしまったのでした。
実はこの2024年の夏までの間にシナカブリモドキとプリンキパリスカブリモドキも入手をしていました。そして、このシナカブリモドキとプリンキパリスカブリモドキについても近しい性分を持っていることが感じられたのでした。活動していない状態と、活動状態が明確に分かれてしまうということです。活動状態に入ることを以降”スイッチを入れる”というような表現にしますが・・・スイッチが入れば活動し、繁殖もするのですが、そのスイッチが何で入るのかが分からないという性質を持っている種がいるという感覚です。
このスイッチのオンオフが気難しい種がいて、オンオフが緩い種がいるという感触です。テイオウカブリモドキや、イボカブリモドキ大型亜種はスイッチのオンオフがほぼありません。実際、どのような温度にしてもとりあえずいつでも活動して捕食も続けます。シナカブリモドキはスイッチを入れるのに少しだけあれこれやってみる必要がありましたが、スイッチは入りやすく、入るとひっきりなしに繁殖活動を続けてくれます。シナカブリモドキの方が、先に繁殖については成功をしています。
プリンキパリスカブリモドキは繁殖のスイッチを入れるまでにやはり数か月かかっております。それまでの間は、ペアを同居させても交尾もしないで寝ているという状態でした。そして、盛夏の頃に不意にスイッチが入り、5頭ほどの次世代を得ることができました。採卵に成功すれば、羽化までは容易でした。やはり、餌を食い・交尾し・産むという行為に至らせることができれば、この手の種の繁殖はゴールも目前・・・・それほど産ませることにハードルがあるということでもあるでしょう。

挿絵になったりアパレルのデザインでも取り入れられる種
非情に美しいプリンキパリスカブリモドキの新成虫
プリンキパリスカブリモドキには裏話がありまして、じつは×20個程の卵が得られたのでした。しかし、当店に取材が入った際にどうしても部屋を閉め切らなければならず・・・・部屋が高温に。低温種のプリンキパリスカブリモドキの貴重なWF1の卵たちは全滅したのでした。
◆絶望と悲劇が転機に◆
・オオコブカブリモドキの謎の産卵
・プリンキパリスカブリモドキの悲劇
何か月かけてもうんともすんとも言わなかったオオコブカブリモドキが、3月頃に謎の産卵行動を行いました。改めて、その様子は以下の通りです。

幼虫に目が行くと思うが
私はマットに注目した
オオコブカブリモドキのケースはベランダに放置されていました。再確認をした春の頃は寒暖差が大きくなってきた頃もでありました(そういうことで確認をしたのでした)。ケースの壁面はひどく結露して、ケースの天井も水にぬれた状態でした。マットの湿度も随分と変わってしまっていました。
この時、私は「実は温度ではなく、湿度も含めたマットの質の変化にトリガーがあったのではないか」という仮説をなんとなく感じていました。そういうことがあったので、このオオコブカブリモドキの偶然の産卵を得たマットはずっと保管をしており、後続の種の飼育の際に同じような配合のマットを使っていったのでした。

暑さにやられてしまうなりには低温を好む種であるが・・・
プリンキパリスカブリモドキは、高温になると全滅してしまうくらいには高い温度に弱いです(卵は)。しかし、本種の繁殖に成功したのは猛暑の年、2024年の酷暑の頃・・・・。しばらく放置しておいたマットに不意に産卵。このことからも、やはり温度変化ではなくマットの質の変化がトリガーになっているのではないかという仮説が強まりました。

55㎜クラスになる埼玉県吾野のアガノマイマイ
じつはWF1の採卵には非常に苦労し、特大WF1は1頭しか得られなかった


2頭別個体である・アガノマイマイの2世代目
2頭とも親越えの怪物クラスのサイズである
オオコブカブリモドキ・プリンキパリスカブリモドキのマットを使ったところ
キャパオーバーになるほどの卵を得ることができ、
結果特大も複数得られた
アガノマイマイ(当方がそう呼んでいるだけです)にも採卵のクセがあり、産み渋ったり、産卵痕を残すものの卵が見当たらないという、先述の”伊豆大島のヒメマイマイカブリ”で経験したものと酷似したクセがありました。このようなクセの強さをすんなりクリアしてくれたのも、偶然×1頭の次世代を残したオオコブマットであり、×5頭の次世代を残したプリンキパリスマットであり、オオコブマットを微調整したものでプリンキパリス・シナ・アガノの飼育が円滑に進みました。
同時期に、男鹿半島のキタカブリの採卵を進めておりました。男鹿半島のキタカブリは、これまで私が開拓してきたマイマイカブリの採卵マットで飼育。しかし、中々クセがあり産まない。マイマイカブリの中では特にクセが強く難しい!という印象でした。

中々産まなかったWild×3メスだったが・・・・
最初は採卵に苦戦が続いた男鹿半島のキタカブリでしたが、アガノマイマイの採卵セットを再利用したところ幼虫がゾクゾク出てくる状態に。ここまで、再利用を続けてきたマットでしたが、同じ配分になるように配合を調整。×3メスに対し、×3セットの近しい配合のマットを用いて採卵を試みたところ・・・

男鹿半島のキタカブリWF1
ここに並ぶのは全て45㎜超級の特大個体である
※プリンカップのサイズは680㏄
これ以上飼育できないくらいの次世代の初齢幼虫が這いまわるという結果に。
◆正解は結果の近くにあった◆
このように、オオコブカブリモドキの偶然から始まったブーストマットの作成は、実は色々な試行錯誤という点が線で繋がっていった結果実現したものと言えそうです。
ここでの記載では、当然試行錯誤の中でも”効果があったもの”、”前進に貢献したもの”だけを抽出して紹介しています。試行錯誤と言うなりには、膨大な量の無駄な取り組みと無駄な労力と無駄なコストがありました。
試行錯誤の歴史は、言い換えれば暗中模索の歴史でもありました。まだまだ飼育人口が少ないマイマイカブリやカブリモドキの飼育においては、既存の方法をいくつか試してみるという開拓法が叶わないことがあります。上手くいった事例を知らないまま、色々やってみるしかなかったというのが実際です。色々やってみると、たまに上手くいくことがあります。手ごたえがある時もあれば、手ごたえが薄い時も。手ごたえが本物であるときもあれば、手ごたえが錯覚であることも。そして、色々やってみればみるほど、考えなければいけないことが増え、データも記録も増え、一層訳が分からなくなっていくものでもありました。
ブーストマットの誕生において、恵まれたと振り返っているのはオオコブカブリモドキの偶然の産卵が実現したマットでした。あれもこれも床材を変えまくっていた頃、たまたま最後にブレンドしたマットが、たまたま1つの次世代を引き出してくれました。
そして、そのたまたま最後に残ったマットが、シナカブリモドキ・プリンキパリスカブリモドキ・アガノマイマイ・男鹿半島のキタカブリの繁殖成功に繋がっていったのでした。
その間、温度を変えてみたり餌を変えてみたり成虫に刺激を与えてみたりと色んな事をやりましたが、それが採卵に直結するものではなかったということでしょう。結局、どうやっても産まなかったオオコブカブリモドキに1つの卵を産ませた結果を作ったマットが正解に一番近かった・・・・・「結果を出したものが正解に近かった」という当たり前のことなのでしょうが、それは蓋を開けてみたらそうだったという話。このような飼育開拓の軌跡は、どんな結果を得たのかということよりも興味深いし面白いことなのかもしれませんね。
◆オオコブカブリモドキの採卵の再挑戦◆

当店のお客様のご協力で
再挑戦が実現した広西省のオオコブカブリモドキ(wild)
2024年秋、当店のお客様のご協力で、広西省のオオコブカブリモドキのペアを入手。かなり弱っていた個体でしたが、すぐに回復を試み、丁寧に仕込んだ結果しっかり回復し、準備がいました。特大のワイルド個体ですが、オスもメスもスレがひどく、オスはフセツの欠けもあったため、確実に繁殖に王手をさすべく入念な準備をしました。
◆マットの最後の調整◆
マットの最後の調整には実は、本当に色々なことを短期間で詰め込んで行いました。
・現地の地質の調査(中国の現地の環境を可能な限り調べました)
・中国のブリーダー様とのやり取り(中国のオサムシ愛好家の方から情報も頂きました)
まずは、王道として上記に取り組みました。手ごたえとしては、これまで「マットの質が時間の経過に伴って変わった」という”なんとなく”の感覚であったものが、「およそこういう感触のマットが理想であろう」というビジョンを持てるようになってきたというものがありました。どうしようもないこととしては、現地の土そのものを使うという王道中の王道がどうしても日本ではできないという壁はあったということでしょうか。
・フィールドに行ってみる
蛹化用の環境づくりについても同様の取り組みをしていますが、複数のフィールドに行って(国内)、河川敷でマイマイカブリが多い地域や、マイマイカブリが生息する山の土を色々調べてみました。これが、マットの最後の調整に活きています。
◆カタツムリ食オサムシのわがまま◆
ここまで読んで頂ければなんとなくご理解頂けることと思いますが、カタツムリ食オサムシの飼育の全ては床材にあるといっても過言ではありません。それほど、床材が繁殖の成功失敗を左右します。加えて、適切な床材の上で飼育をするとカタツムリ食オサムシは活性を高めます(後述します)。産ませるだけではなく、活動をさせることについても床材は非常に重要な存在です。
さて、カタツムリ食オサムシの困ったところは、この床材に矛盾したり、相反する要素をもとめてくるということです。どういうことかと申しますと・・・・・。
・産卵の床材はフワフワサラサラのものが好まれる
・産卵の床材は保湿力が高く乾きにくいものが好まれる
・産卵の床材は固まりやすく、崩れにくいものが好まれる
・産卵の床材の上で大量の餌を与え、床材が劣化しない、そういうものが好まれる
このように、産卵用の床材には、”その両立は難しい”というような要素や、”両極端”な要素を複数備えたものが好まれるのです。今回は話を脱線させないようにこのくらいに留めますが、他にもカタツムリ食オサムシは多くの相反する要素の両立を求めてきます。
◆マットのブレンド◆
上記のような、相反するような性質を備えた1つのマットを1種の素材から作ることは難しいです。ここに、マットのブレンド・調合の必要性があるわけですね。複数の素材を融合させることで、複数の性質を備えさせ、結果的に相反する要素を複数揃えるということを実現する・・・・ということです。何をブレンドするのか、どれだけブレンドするのか・・・(もちろん全て秘密ですが)・・・・無数の可能性がありましたが、色々調べ、色々試してみて、そしてフィールドに行って調査し、調整するのには確かに1年以上の年月は必要でした。オオコブが産んだ時、これかな・・・・と思った”こんな感じのマット”という感覚・・・・あの時のイメージから完成まで13ヶ月ほどかかりました。
◆実績◆
いよいよ感覚にぴったり合ったマットが完成しました。調合も、場当たり的にならないようにノートに比率を目もしながら行っていきましたので、ロットによる調合の比率の誤差は非常に少ないです。

早速活動させたオオコブカブリモドキですが、やはり床材がマッチすると活動が違います。地表性の甲虫は、地表性と言われるなりには地質に活性が左右されます。気難しいカブリモドキというのは、質が合わないマットで飼育すると、「ここで消耗するのはやめよう」と休眠してしまうということなのでしょうか。いずれにしても、オオコブカブリモドキはほぼ際限なく餌を食うモードに入りました。初速からロケットスタート。間違いなくマットがブースターになっていると体感できました。これがブーストマットの名前の由来でもあります。

以前は活動させることが難しかったオオコブカブリモドキ
延々と餌を食ってくれる
そして、しばらくしてセットを暴くと・・・

一気に大量の採卵に成功
もう偶然の産物ではないだろう
オオコブカブリモドキは、2024年内で2桁頭数を確保、2025年1月1日もまだ採卵が続いています。一度採卵セットを解除、成虫も一度は産卵のスイッチを切ってしまったのですが・・・・

オオコブカブリモドキの羽化直後
美しさは筆舌に尽くしがたい

オオコブカブリモドキの発色過程
ファイアメタルと形容される前胸の縁のラインは
実は緑を経由してから深紅に染まる
あまりの素晴らしさに採卵を再開。年内に追加を得られ始めています。
これに加えて・・・・

色々試行中であった湖北省のイボカブリモドキも、ブーストマットで管理
確かに活性が上がり、餌を食い続ける状態に入った
ついに、難攻不落と感じられた湖北省のイボカブリモドキの採卵も成功。
1回のセットで、×4卵の回収に成功しました。

半年ほどの苦戦の末に正解にたどり着く
この瞬間がたまらない
現在は、赤いイボカブリモドキもブーストマットで管理を開始。
赤いイボカブリモドキはかなり消耗しているので時間との闘いでもありますが・・・・体力が残っていれば産んでくれるように思います。
このように、奇跡を辿れば、2024年3月のオオコブカブリモドキのマットが、微調整だけを重ねて、どんどん新しい種の開拓につながっていったということですね。この実績の線で繋がれてきたマット・・・ブーストマットを、湖北省のイボカブリモドキの採卵成功をきっかけとし、「十分な実績を出した」と当方が判断。このような素晴らしい甲虫の飼育文化の発展に貢献したく、世に出す運びとなった次第です。
◆ブーストマットの性能等◆
①使用感等
・保湿力が高い→1か月ほど加水せず使用できます
カブリモドキ・マイマイカブリの卵は、やや高い湿度を好みます。しかし、水に直接触れると死んでしまうことが多いです。霧吹きなどをして水分調整をすると、既に産まれた卵に水が直接触れ、卵をダメにしてしまうことがあります。一方で、乾燥しすぎるとそれはそれで卵はダメになってしまいます。保湿力が高く、長期湿度を保てるのがブーストマットの性能のです。
・ダニに強い
ワイルドは特に、虫の性質上成虫にはダニがついていることがあります(不潔なのではなく、そうやって清潔を保っています)。このようなダニがマットの中には這い出にくく、卵がダニにやられることが非常に少ないです。上記同様、セットの持続力が長いのが特徴です。
・柔らかい
ふかふかで柔らかく、メスが産卵管をマットの中に入れやすいような感触です。
・形状固定力がある
メスは産卵管を床材に挿入し、長い産卵管で卵座(卵が入るスペース)を作り、その中に卵を横たえます。産気づいたメスはどのようなマットでも産卵しようとしますが産むには至らないことがあります。卵座が崩れるようなマットは産卵に適さないとして産卵を諦めてしまうのです(従って、固定力が高い湿り過ぎたピートには産んでしまうことがあります。ただし、狙って産卵させることは至難です)。
・層を作ることができる
マットの上1cmくらいは徐々に乾いてきますが、そこから下は保湿されるような性質をもっています。水分量に不安がある方は、やや加水が多めな状態(かるく握るとくずれれない、水を搾れるほどではない)にして放置して頂くと、いずれ産卵に適した状態に変わっていくようにできています。
※発送の段階で水分調整はしてから送ります
また、詰め方を気にする必要がありません。届いたマットを袋からザっとケースに開けて頂くだけでOKです。下の方がマットの重量で固まり、上の方がふわふわのままになります。産卵管を深く差し込む種・潜って産卵する種等、固めの層を好む種に適した固さのゾーンができ、やわらかい層も残る・・・という性質を持っています。
➁再利用可能
再利用が可能です。腐りにくく、変質しにくい材質でできていますので、未使用の状態で長期保存が可能です。使用についても、何度も使って頂くことができます。1月1日現在、オオコブカブリモドキはまだ10月頃から使用中の産卵マットを使っています。肉食甲虫に餌を与えながら管理しても、食べ残しなどを除去していけば3~4か月は普通に使えます。
使用が終わったマットは、天日干しでも陰干しでもどちらでも構いませんので完全乾燥させて頂くと、また再利用が可能です(天日干しを推奨)。再利用の際には、届いたときと同じくらいの水分量に加水をしてください。
③量を気にする必要がありません
・1.2L単位の販売です
・1/2Lで¥980(送料別)の予定です
産卵セットについては深さも重要。その深さを考えなくて大丈夫な量に計量しました。小ケースで、1.2L・・・・中ケースでは1.2L×2で丁度良い深さになります。ケースにマットを適切な深さまで入れてから、それを取り出して量を計量するという方法で量を定めましたので、安心してそのまま使ってください。
※マットの性質上、固く詰めると小さくなり、緩く詰めると体積は大きくなりますので、計量カップにぴたっと入るくらいの詰め方で封入します(ぎゅっと固めれば体積は減ります)。
④虫の活性を高める
虫の活性を高めてくれます。最初は潜ってしまうかもしれませんが、放置しておくとよく活動します。よく餌も食うようになります。産卵セットの際にはもちろんですが、より小さなケースに少量ブーストマットを敷いて飼育して頂くと、餌をよく食い、成熟や仕込みが早くなります。
⑤蛹化マットにも使用可能
一応・・・というレベルですが、蛹化マットとしての使用も可能です。その際には、もう少し加水して固まりやすいようにはしてあげてください。50㎜アンダーのカブリモドキ・マイマイカブリは問題なく蛹化します。50mm超級になる種には、また別の工夫が必要なケースもありそうです。
◆ブーストマットのデメリット◆
どうしても、カブリモドキやマイマイカブリは産卵床に砂などを好みますので、ブーストマットにもそういった固い素材が含まれます。ピートやクワガタマット、ミズゴケなどで管理するのに比べ、ブーストマットで管理した成虫は摩耗します。
オサムシは非常に強い甲虫です。繊細な造りの割に、きわめて丈夫。数年にわたって、美しい姿で鑑賞が叶います。もちろん、飼育後の標本も綺麗でしょう。ブーストマットで管理をして思い切り採卵すると、オサムシの体表などがある程度は摩耗してしまいます。輝きも鈍くなることがあります。標本用にしたい個体は、ブーストマットでの管理はお勧めできません。標本用に綺麗に飼育するか、標本を視野にいれずブーストマットで思い切り次世代をとるかという天秤は考える必要がありそうです。
◆販売開始時期等◆
現在、パッケージデザインなどを準備しているところです。
いずれ、Q&Aなどの機会も、できれば儲けたいと考えております(Youtube Live?)
今はそういう状況ですので、販売については今しばらくお待ちください。
早くて1月、遅くても2月には販売を開始する予定です。






オサムシの飼育はいいですよ。まったくスレ欠けがない新成虫が羽化してきます。地味に見える種も、実はすさまじい美しさを体現してくれたりします。ワイルドのサイズ感を崩壊させるようなサイズの個体が生まれてきます。オサムシについては、大型になっても大味になるとは限りません。何なら、大きな個体の方が色味も鮮やかです。採集が難しい種も増やせます。何頭も採らないと得られないレアカラーも得られます。


そして、なんと言っても神秘的です。
ブーストマット、是非手に取ってみてください。
そして、美しいオサムシの成虫を手に取って、吸い込まれるような構造色・・・・絵本の世界から飛び出してきたみたいな造形美を思い切り味わってみてください!